素材・加工ガイド

レーザー刻印は消えるのか|メッキと無垢で違う耐久性

レーザー刻印は消えるのか|メッキと無垢で違う耐久性
目次
  1. 刻印が消えないのは、削った溝そのものが文字だから
  2. メッキの品物は「表面と下地の色の差」で読めています
  3. 無垢の真鍮・ステンレスは、削っても同じ金属が出てきます
  4. メッキ品と無垢材、並べて比べると
  5. 普段使いのものを選ぶとき、わたしが確認している3つのこと
  6. 実例|創業50年のロゴを刻んだヘアゴム
  7. 費用と納期の目安
  8. わたしが最初に勘違いしていたこと
  9. よくいただくご質問
  10. まとめ

結論から書きます。レーザー刻印は、インクや塗料のように剥がれて消えることはありません。文字そのものが、素材を削ってできた溝だからです。拭いても、擦っても、洗っても、形として残ります。

こんにちは、Ichis広報の紗英です。ご相談をいただくなかで、意外とよくお聞きするのが「この刻印、そのうち消えませんか」という質問です。プレゼントにされる方、お店で毎日使う金具に入れる方、作品にブランド名を入れる作家さん。長く使うものだからこそ、気になるところだと思います。

ただ、先に正直にお伝えしておきたいことがあります。「消える」と「見えにくくなる」は別の話です。刻印の溝は残ります。けれど、その溝が読めるかどうかは、素材の構造によって変わってきます。分かれ目になるのが、メッキがかかった品物か、無垢の金属かという違いです。

要点だけ先に書いておきます。メッキの品物は「表面と下地の色の差」で文字が見えていて、無垢の金属は「素材そのものの色と、削った溝の陰影」で見えています。前者は色の差に頼っているぶん、使い方によっては差が縮んでいくことがあります。後者は削った先も同じ金属なので、その心配がありません。ここが今日いちばんお伝えしたいところです。

この記事では、その違いを実物の写真で見ていただきます。金メッキのバネホック、真鍮とシルバーのネックレストップ、毎日使うヘアゴム。どれも東京・浅草の自社工房で実際に加工したものです。素材ごとの仕組みと、普段使いのものを選ぶときの目安まで、順にご説明します。売り込みではなく、判断材料としてお読みいただければと思います。

刻印が消えないのは、削った溝そのものが文字だから

まず仕組みからです。印刷やプリントは、素材の上にインクを「乗せる」加工です。乗せたものは、時間が経てば擦れて落ちます。革のバッグの箔押しが少しずつかすれていくのも、これが理由です。

レーザー刻印は逆で、素材の表面を「飛ばす」加工です。文字の部分だけ、表面がなくなっている状態をつくります。だから乗っているものが落ちる、ということが起きません。溝は素材そのものの形なので、洗っても、アルコールで拭いても、爪で引っかいても取れません。

この「削って地の色を出す」という性質は、仕上がりの読みやすさにも直結します。文字がつぶれる・読めないといったトラブルの原因はレーザー刻印の失敗を防ぐ|文字がつぶれる原因と対策にまとめてありますので、これから発注される方はあわせてご覧ください。

金メッキのバネホックの頭にレーザー刻印を入れた実物。金色の表面が削られ、下から出てきた地の色で文字が読める状態になっている
金メッキのバネホックに刻印したものです。金色の表面を削って、下から出てきた色が文字になっています。直径は1cmほど。文字は「乗って」いるのではなく「削れて」います。

メッキの品物は「表面と下地の色の差」で読めています

上の写真のバネホックは、真鍮などの土台に金メッキをかけた金具です。メッキの層はとても薄く、レーザーはその薄い層を飛ばします。すると下地の金属が顔を出し、金色の地に、少し暗い色の文字という状態になります。

この仕組みについては、西出がこう話していました。

メッキがかかった金具は刻印すると表面の下の色が出て、その色の差で文字が見えるから、同じデータでも金具の色ごとに見え方が変わる。まず1個刻印して、実物を見てから数を作るのがいちばん失敗がないよ。(西出)

ここが大事なところです。メッキ品の文字は「色の差」に支えられているということです。差が大きければはっきり読めますし、差が小さければ薄く見えます。金具の色ごとに見え方が変わるのも、下地との組み合わせが変わるからです。

そして、色の差に支えられているということは、差が縮む方向の変化には弱いということでもあります。強く擦れる場所で使い続けると、周囲のメッキも少しずつ薄くなっていきます。そうなると地と文字の色が近づいて、読みにくく感じられることがあります。文字が消えたわけではなく、コントラストが落ちた状態です。

もうひとつ、刻印した部分は下地の金属がむき出しになっている状態でもあります。汗や水に触れたまま放置すると、その部分がくすむことがあります。ふだんのお手入れとしては、使ったら乾いた布で拭いていただく程度で十分です。金具そのものへのブランド刻印についてはバネホック・金具にブランド刻印|ハンドメイド作家の名入れで詳しく書いています。

無垢の真鍮・ステンレスは、削っても同じ金属が出てきます

レーザーで切り出した2枚のネックレストップを木の板の上に並べた比較写真。左がシルバー系の金属、右が真鍮で、どちらも表面だけでなく素材そのものの色をしている
レーザーで切り出したネックレストップです。左がシルバー系、右が真鍮。どちらも「表面だけの色」ではなく、素材そのものの色をしています。削っても、出てくるのは同じ金属です。

無垢の金属は構造が違います。真鍮なら中まで真鍮、ステンレスなら中までステンレスです。削っても、出てくるのは同じ色の金属ということになります。

ではどうやって文字が読めるのかというと、こちらは溝の陰影と、表面の質感の差です。削られた部分はわずかに沈み、光の反射の仕方が変わります。角度によって表情が変わるのはそのためで、メッキ品のようなはっきりした色のコントラストは出ませんが、そのぶん落ち着いた見え方になります。

そして色の差に頼っていないので、色が近づいて読めなくなる、ということが起きません。真鍮は使い込むと全体が飴色に変化していきますが、溝も一緒に変化していくので、地と文字の関係そのものは変わらないままです。ステンレスはそもそも変色しにくい素材です。

素材そのものの性格の違いは真鍮 vs ステンレス|刻印に向いている金属素材を比較に、切り出しと刻印の使い分けは金属アクセサリーをレーザーで作る|刻印と切り出しにまとめています。

メッキ品と無垢材、並べて比べると

メッキがかかった品物 無垢の金属(真鍮・ステンレス)
文字が見える仕組み 表面のメッキを削り、下地の色を出す。色の差で読める 素材そのものの色に、削った溝の陰影が加わる
よくある品物 金メッキのバネホック、クロム風のコンチョ、既製の金具 真鍮のネックレストップ、ステンレスのプレート
仕上がった直後 色の差が大きく、はっきり読める 落ち着いた見え方。光の角度で表情が変わる
使い続けたとき 擦れる場所では周囲のメッキも薄くなり、色の差が縮むことがある 削った先も同じ金属なので、地と文字の関係は変わらない
向いている使い方 擦れの少ない場所。直後のコントラストを重視するとき 毎日触る、擦れる、長く残したいもの

どちらが優れている、という話ではありません。「どこで、どう使うか」で選ぶものだと思っています。バッグの内側につく金具のように擦れが少ない場所なら、メッキ品のくっきりした見え方が生きます。逆に、毎日手で触れるものや、何年も残したい記念品なら、無垢材のほうが安心です。

普段使いのものを選ぶとき、わたしが確認している3つのこと

アンティーク調のバネホック4点セットを並べた写真。頭の部分にレーザー刻印が入っており、留め具としての構造がわかる
バネホックは4つの部品で1組になっています。刻印が入るのは、いちばん外から見える頭の部分です。留めたり外したりを繰り返す金具なので、擦れ方も考えて素材を選びます。

ご相談をうかがうとき、わたしが必ず確認しているのは次の3点です。

  • 擦れる場所につくものか。財布の留め具、ベルトの金具、鍵につけるものは擦れが多い場所です。ここに使うなら、色の差に頼らない無垢材のほうが長く安定します。
  • 汗や水に触れる使い方か。アクセサリーや、屋外で使う道具がこれにあたります。ステンレスがいちばん扱いやすく、真鍮は変化を楽しむ素材、メッキ品は使ったあと拭いていただく前提になります。
  • 何年先まで、いまの見え方を保ちたいか。数年後に渡す予定の記念品や、代々使うつもりのものは、素材選びの段階からご相談いただいたほうが確実です。

この3つをうかがえれば、素材のご提案までこちらでできます。逆に、この3つが決まっていない状態で素材だけ先に決めてしまうと、あとから「思っていたのと違う」になりやすいところです。

実例|創業50年のロゴを刻んだヘアゴム

この記事のいちばん上に載せている写真は、鉄工所のY’s Iron Fabricator様からご依頼いただいた、創業50周年の記念品です。1969年の創業で、2019年に50年。溶接面と工具をかたどったロゴと、社名、創業年、50thの文字を、クロム風のコンチョに刻印してヘアゴムに仕立てました。

記念品というと壁に飾る盾を思い浮かべる方が多いのですが、身につけて使えるものにすると、渡したあとの時間が長くなります。この案件でそれを教わりました。ギフトとしてのアクセサリーの選び方は名入れアクセサリーを贈り物に|刻印ギフトの選び方にまとめています。

ロゴのように線の多いデザインを小さな面に入れる場合は、素材の話とは別に「線が読めるか」という設計の問題も出てきます。直径2cm前後のコンチョだと、細い線を詰め込むより、要素を減らして太めに入れたほうが、離れて見たときにきちんと伝わります。

費用と納期の目安

金具やアクセサリーへの刻印は、品物ごとに素材もサイズもばらばらです。そのため定額の表はご用意しておらず、内容をうかがってからのお見積もりにしています。

金具は種類もサイズもばらばらだから、料金は内容を見て都度お見積もりにしている。持ち込みなら金具そのものの代金はかからないし、1個から大丈夫。納期は内容にもよるけど、だいたい1〜2週間。記念品みたいに渡す日が決まっているものは、先に日程を教えてもらえれば逆算して進められるよ。(西出)

サイズと数量で単価が決まる標準的な刻印についてはレーザー加工刻印 価格表に表の形で載せています。ご自身の品物がどのくらいになるか見当をつけたいときの目安にお使いください。

わたしが最初に勘違いしていたこと

正直に書きます。わたしは前職でアパレルの販売をしていて、メッキのアクセサリーが色落ちしていくところを何度も見てきました。だからIchisに入ったばかりのころ、レーザー刻印も同じように、いつか薄くなって消えていくものだと思っていました。

実物を並べて見せてもらって、考えが変わりました。削った溝は、そこにある限り残ります。色落ちするのは表面に「乗っている」ものであって、刻印は乗っていないのです。この違いが分かったとき、なるほど、と腑に落ちました。

そのうえで、いまはもう一段先までお伝えするようにしています。溝が残ることと、読みやすいままでいることは、同じではないということです。メッキ品は色の差で読めているので、その差が縮む使い方をすれば見えにくくなります。「消えますか」と聞かれたときに「消えません」だけで答えてしまうと、数年後に「思っていたのと違う」になりかねない。だから、どこで使うものかを先にうかがうようになりました。

よくいただくご質問

Q. 刻印した文字は、何年くらいもちますか?
A. 年数でお答えするのは難しいのですが、溝そのものは素材が摩耗しない限り残ります。気にしていただきたいのは読みやすさのほうで、メッキの品物を擦れる場所で使い続けた場合は、色の差が縮んで読みにくく感じられることがあります。見た目を長く保ちたい場合は、無垢の真鍮やステンレスをおすすめしています。

Q. メッキの金具には刻印しないほうがいいですか?
A. そんなことはありません。メッキ品は色の差がはっきり出るので、仕上がった直後の見え方はむしろきれいです。擦れの少ない場所であれば問題なくお使いいただけます。素材選びは「どこで、どう使うか」で決めていただくのがよいと思います。

Q. 刻印したところが錆びたりしませんか?
A. 素材によります。ステンレスは錆びにくく、真鍮は錆びるというより全体が飴色に変化していきます。メッキ品は刻印した部分で下地の金属が出ている状態になりますので、濡れたまま放置しない、使ったら乾いた布で拭く、という程度のお手入れをしていただければ安心です。

Q. 一度入れた刻印は消せますか?
A. 削って入れているので、基本的には消せません。研磨すれば浅い刻印を目立たなくできる場合もありますが、表面の質感が変わってしまいます。だからこそ、内容は入稿前によく確認していただくようお願いしています。

Q. 手持ちのアクセサリーや金具に刻印してもらえますか?
A. 素材とサイズを拝見してからの判断になりますが、金属であれば多くの場合お受けできます。替えのきかない大切な品物については、事前に確認させていただく手順を踏んでいます。詳しくはレーザー刻印を持ち込みで頼む|替えがきかない品の注意点をご覧ください。

まとめ

「刻印は消えるのか」という問いに、あらためて整理してお答えします。

  • 消えません。レーザー刻印は削ってできた溝そのものなので、インクのように剥がれて落ちることはありません。
  • ただし「読みやすさ」は素材で変わります。メッキ品は表面と下地の色の差で見えているため、擦れる使い方では差が縮んで読みにくくなることがあります。
  • 無垢の真鍮・ステンレスは見え方が安定します。削った先も同じ金属なので、色の差に頼っていません。
  • 選び方の軸は「どこで、どう使うか」。擦れる場所・水に触れる使い方・何年先まで保ちたいか、の3点が決まれば素材は決まります。

刻印できる品物の一覧は製品カタログにまとめてあります。

「この金具に入れたいけれど、素材が何か分からない」という段階でも大丈夫です。写真を送っていただければ、こちらで見当をつけて、向き不向きも含めてご提案します。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。