素材・加工ガイド

レーザー刻印の失敗を防ぐ|文字がつぶれる原因と対策

レーザー刻印の失敗を防ぐ|文字がつぶれる原因と対策
目次
  1. 刻印は「印刷」ではなく「削って地の色を出す」加工
  2. つぶれる4つの原因
    1. 1. 地の色と、削ったあとの色の差が小さい
    2. 2. 刻印する面が小さい、または曲がっている
    3. 3. 細い線と太い面が同じデザインに混ざっている
    4. 4. 極小の文字とQRコードを限界まで詰め込んでいる
  3. 西出に聞いた、線の太さの考え方
  4. 発注前に、自分で確認できる4つの目安
  5. やり直しの費用は「刻印代」ではなく「版代」で決まります
  6. よくいただく質問
    1. Q. 送る前に「つぶれそうか」相談できますか
    2. Q. 手書きのロゴやラフでも刻印できますか
    3. Q. 文字を大きくすると、デザインの雰囲気が変わってしまいませんか
  7. まとめ

刻印で文字がつぶれる原因は、データより先に「素材の色・刻印できる面積・線の太さ」の組み合わせにあります。同じデザインファイルでも、黒いカードなら細い線まできれいに出るのに、金色の小さなプレートでは読めなくなる、ということが実際に起こります。

わたしは前職がアパレルの販売員で、Ichisに入ってからレーザー加工を覚えました。まだ慣れないころ、自分で起こしたデザインを「これで大丈夫です」と加工に回したのに、上がってきた実物では文字の中の隙間がつながってしまって、まったく読めなかったことがあります。画面ではちゃんと余白が見えていたんです。拡大した画面の中の余白と、実物の1ミリの余白は、まったく別物でした。あのとき西出さんに言われた「実寸で表示して、それでも読めるか見てください」という一言は、いまも毎回思い出します。

この記事では、刻印の仕上がりがつぶれてしまう原因を4つに整理して、発注する前にご自身で確認できる目安と、やり直しになったときに費用がどう動くかまでまとめました。実際にIchisで製作したメタルカードの写真を並べているので、「どのくらいの太さなら出るのか」を目で見ていただけると思います。入稿ファイルそのものの作り方は刻印データの作り方|入稿前のチェック5項目にまとめてあるので、あわせてご覧ください。

刻印は「印刷」ではなく「削って地の色を出す」加工

レーザー刻印は、素材の表面の層を削り取ったり変色させたりして図柄を出します。インクを乗せる印刷とちがって、色を自由に選べません。出てくる色は、素材そのものが持っている色です。

つまり、読めるかどうかを決めているのは「地の色」と「削ったあとの色」の差、そしてその差を何ミリの幅で表現するかの2つだけです。デザインが良いか悪いかではなく、この2つの条件を満たしているかどうかで決まります。

下の写真は、黒いアルミのカードに筆文字を刻印したものです。線が太いので削れた面がしっかり面積を持ち、離れて見てもはっきり読めます。刻印がいちばん得意なのは、こういうデザインです。

太い筆文字をレーザー刻印した黒いメタルカード。線が太いと金属でもはっきり読める
太い筆文字は、黒いアルミのカードでも輪郭がくっきり残ります。刻印がもっとも得意とする形です。

つぶれる4つの原因

1. 地の色と、削ったあとの色の差が小さい

黒いアルマイト加工のカードは、削るとその下の銀白色が出てきます。黒と銀白色なので、コントラストは最大です。いっぽう金色やシルバーの素材は、削ったあとの色との差が小さくなります。同じ線幅・同じ文字サイズでも、黒より読みづらくなるのはこのためです。

色ごとの出方のちがいはメタルカードの色選び|4色サンプル写真で違いを比較で実物の写真を並べています。素材そのものを選ぶ段階の話はレーザー刻印で使える素材|木材・金属・アクリル・革で比較が参考になると思います。

2. 刻印する面が小さい、または曲がっている

ピアスやマウスピースのように、直径1センチ前後の小さな曲面は、いちばん条件が厳しくなります。平らな面ならピントが合う範囲に全体が収まりますが、丸みがあると場所によって焦点がずれるので、細い線が薄く出たり途切れたりします。

小さいものに刻印するときは、線を太くするより先に入れる情報を減らすのが確実です。フルネームと日付とロゴを全部入れるのではなく、イニシャルとロゴだけにする、といった判断になります。

3. 細い線と太い面が同じデザインに混ざっている

下の写真のカードは、かすれたような模様と、細い欧文の文字と、太い筆文字のロゴが同居しています。こういうデザインは、太い面がきれいに出る設定にすると細い線が飛びやすく、細い線に合わせると太い面が浅くなる、という綱引きが起きます。

細い欧文文字とかすれ模様を組み合わせてレーザー刻印したメタルカード
細い欧文、点の集まり、太いロゴが同居するデザイン。要素ごとに得意な設定が違うため、いちばん神経を使うタイプです。

とくに、かすれ模様のような小さな点の集まりは、点が小さくなるほど再現が難しくなります。デザインの意図として「かすれ」を残したい場合は、模様の粒を意図的に大きめに作り直すことがあります。

4. 極小の文字とQRコードを限界まで詰め込んでいる

名刺型のカードは、これがいちばん起きやすいです。店名、担当者名、住所、電話番号、URL、QRコード、通し番号——入れたいものを全部入れると、必然的に文字が小さくなります。

小さな文字とQRコードを刻印した金色のメタルカードの量産分
情報量の多い名刺型の実例。住所やURLの行はかなり小さく、QRコードも入っています。金色は削ったあととの色差が小さいぶん、黒より条件が厳しくなります。

QRコードには、もうひとつ金属特有の注意点があります。QRは明暗の対比でスマートフォンに読ませる仕組みなので、金属の反射が強いと、刻印そのものはきれいに出ていても読み取れないことがあります。周囲の余白を広めに取り、サイズも大きめにして、納品前に実物をスマートフォンで読ませて確認するのが確実です。これは図面の上では絶対にわからない部分でした。

西出に聞いた、線の太さの考え方

刻印は削る加工なので、線が細いほど不利になります。入稿データでは線幅0.05mm以上を確保していただくようお願いしていますが、これはあくまでデータとして成立する最低線です。実物で読めるかどうかは、素材の色と刻印するサイズで変わります。細い線や小さい文字が多いデザインは、こちらから線を太らせるご提案をすることがあります。判断が難しいときは、先にサンプルを1枚だけ作って現物で確認するのがいちばん確実です。納期は1〜2週間をみていただければ、サンプルの確認を挟んでも間に合います。

— Ichis 西出

発注前に、自分で確認できる4つの目安

確認すること 目安 理由
画面を実寸表示にして読めるか 実寸で読めない文字は、実物でも読めません 拡大表示は、余白を実際より広く見せます
いちばん細い線の太さ データ上は0.05mm以上。実物で読ませたい線はさらに太く 削り幅より細い線は再現できません
刻印する面の広さと形 平らで広いほど安全。小さい面・曲面は情報を減らす 焦点が合う範囲にかぎりがあります
素材の色 黒(アルマイト)がもっとも対比が出ます 刻印の色は素材まかせで、選べません

この4つを先に見ておくと、「思っていたのと違う」の大半は避けられます。フォント形式や画像の解像度といったファイル側の条件は入稿前のチェック5項目にまとめてあります。

やり直しの費用は「刻印代」ではなく「版代」で決まります

つぶれてしまったときにいちばん痛いのは、実は刻印代ではありません。西出さんに費用のかかり方を確認しました。

メタルカードの場合、版代が5,500円、刻印代は1枚目が1,000円、2枚目以降が380円/枚です。両面に刻印される場合は1枚あたり250円の追加になります。デザインデータ作成代は1デザインあたり2,750円で、Ai形式のデータをお持ち込みいただければこれはかかりません。いずれも税込で、送料は別途です。注意していただきたいのは、版代は注文ごとに毎回いただくという点です。つぶれて作り直しになると、この5,500円がもう一度発生します。

— Ichis 西出

ここが大事なところなので、50枚作る場合で計算してみます。版代は注文のたびにかかるので、作り直しは「刻印代がもう一度」ではなく「注文がもう一度」になります。

進め方 内訳 合計
そのまま50枚 → 問題なし 版代5,500+1枚目1,000+49枚×380 25,120円
そのまま50枚 → つぶれて作り直し 25,120円 × 2回 50,240円
サンプル1枚 → 確認 → 50枚 6,500円 + 25,120円 31,620円

作り直しになった場合とくらべると、サンプルを先に1枚作るほうが18,620円安く済みます。逆に、一度で問題なく仕上がったときは、サンプル代の6,500円が余分にかかることになります。つまりサンプルは、6,500円で18,620円のリスクを外す保険という位置づけです。細い線や小さい文字が多いデザイン、金色やシルバーの素材、枚数が多い注文——このどれかに当てはまるなら、わたしはサンプルをおすすめしています。

なお、これは加工代だけの比較で、送料は別途です。「何枚作るのがいちばん得か」という数量そのものの決め方はノベルティを小ロットで作る|金属刻印の費用と数量の決め方にまとめてあります。カードの料金表はメタルカード料金表、カード以外の刻印はレーザー加工刻印 価格表で公開しています。

よくいただく質問

Q. 送る前に「つぶれそうか」相談できますか

できます。画像を送っていただければ、細くなりそうな箇所や小さすぎる文字をお伝えしています。わたし自身、自分では気づけずに実物で読めなかった経験があるので、迷ったら送っていただくのがいちばん早いです。

Q. 手書きのロゴやラフでも刻印できますか

お受けしています。ただ、細いペンで描いた線はそのままでは出にくいので、線を太らせる調整を入れることがあります。ファイル形式や解像度の考え方は入稿前のチェック5項目に書いてあります。

Q. 文字を大きくすると、デザインの雰囲気が変わってしまいませんか

変わります。なので、線を太くする方向ではなく、情報を減らす方向で調整することも多いです。住所とURLを外してQRコードだけにする、といった整理です。読めない情報は載っていないのと同じなので、そこは割り切ったほうが結果的にきれいに仕上がります。

まとめ

刻印がつぶれる原因は、データ不備よりも先に素材の色・刻印面の広さ・線の太さにあります。押さえておきたいのは3つ、刻印の色は素材まかせで選べない/小さい面と曲面は情報を減らす/実寸表示で読めない文字は実物でも読めない。そして、やり直しの費用は版代5,500円が再発生するかたちで効いてくるので、条件が厳しいデザインはサンプルを1枚はさむのがいちばん安い進め方です。

素材ごとの見え方は金属プレートに名入れ刻印|素材選びと事例ガイドで、刻印できる品物の一覧は製品カタログからご覧いただけます。デザインの段階でご相談いただければ、つぶれそうな箇所は先にお伝えします。

刻印のデザインを相談する

紗英 / Ichis広報